最初は、えり好みしない

産業医の案件をどう選ぶか、という質問への答えは拍子抜けするほど単純です。最初は選んでいる場合ではありません。

ゆーゆー
産業医は経験値がものを言う仕事なので、いかに早く複数社の経験を積めるかが信頼につながるんですよ。
アイジュアイジュ
だから、納得のいかない条件でも受けると。

片道1時間かけて行って、現場での活動が1時間。往復のほうが長い案件も、この時期には普通に受けます。条件が悪いことは分かったうえで、経験の数を先に積む判断です。

1件目が、いちばん高い壁

資格を取ってから1年近く何もできなかった、という話は珍しくありません。企業側も産業医が何をする人か分かっていないことが多く、「先生が来ました、今日は何をしましょう」というところから始まる現場があります。そこで職場巡視をさせてくださいと言えるか。面談を頼まれたときに、どういう背景を聞き出せばいいか分かるか。

ゼロから独りで入るのと、誰かの下で半年学んでから入るのとでは、まるで違います。嘱託の現場には産業医が自分ひとりしかいないため、自分が正しいことをやれているのかを客観的に確かめる手段がありません。臨床なら外来と病棟と手術を回りながら総合的に鍛えられますが、嘱託だけだと能力が偏ります。

アイジュアイジュ
産業医って、どうやって学ぶんですか。見るポイントを教えてもらえたりするものなんですか。
ゆーゆー
それを全部、角田先生に教えていただいたイメージです。完全に師匠です。

この師弟関係は、Xのつぶやきに送ったDMから始まっています。産業医として一緒にやってくれる先生を探している、という投稿を見て、資格は持っているし半日なら空けられます、と送った。返事はOKでした。無視されたら無視されたでいい、という程度の踏み込みで、そこから半年の修業が始まっています。

累計5社を超えると、態度が変わる

1件目を越えても、まだ1社しか受けていないという弱さは残ります。企業から見れば、その1社が特殊だっただけかもしれない。

累計5社ほど担当した実績になると、それだけ見ているんだな、という形で話を聞いてもらえるようになります。数字そのものに意味があるというより、複数の業種と規模を見てきたという事実が信用になります。愛知なら工場の案件が多くなり、都心ならオフィスが増える。同じ産業医という言葉でも、現場ごとにやることが違うからです。

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健康経営は、入口になる

案件を広げる具体的な入口として使えるのが健康経営です。認定を取ることを目標にいろいろ施策を打つ企業は多い。ところが取ったあと、維持する段になって何をすればいいか分からなくなります。人手が足りず、できることが限られる。

なぜ維持したがるかというと、新卒や中途の採用に効くからです。一度取ったものが取れなくなると、従業員へのサポートを意識しなくなったのだな、というイメージにつながる。上位に入りたい、というニーズを持つ企業もあります。

ゆーゆー
健康経営エキスパートアドバイザーの資格も取っているので、こういうお悩みならこう解決できますよ、というのは匂わせますね。
アイジュアイジュ
それで、具体的に聞かせてくださいという流れになると。

進め方には順番があります。まず法令遵守をしっかりやる。必要なら仕組みを作る。そのうえで一度提案してみて、反応を見る。もっといけそうだと感じたら踏み込む。いきなり大きな提案から入らないのは、企業ごとに求めているものの幅が違うからです。

自分で解決できなくても、案件になる

提案というと自分が答えを出さなければいけない気がしますが、そうではありません。その課題ならこういう方につなげますよ、と言えるだけで喜ばれます。

産業保健師、社労士、弁護士。産業医をやりだしてから他職種とのつながりが増えた、という声はよく聞きます。裏を返すと、顔が広い人はこの仕事に向いています。医師以外のつながりが多い人は、企業からするとビジネスチャンスを持ってきてくれる人に見えるからです。

100点でなくていい、というのもここに関わります。60点でも70点でも、こうしてはどうかと出す。それを続けていると実力も上がるし、感謝もされる。手数を増やしておくと失敗しにくくなります。いるだけの人は、問題を解決できません。

27社を、週3日で回す人がいます

案件が増えた先がどうなるかも見ておきます。25社から30社を担当し、相談レベルまで数えるともっと増える。それでも訪問は週3日の枠に収めている、という働き方が実在します。

アイジュアイジュ
27社持ってても、週3で済むんですか。
ゆーゆー
聞いていても医者っぽくないですよね。社長ですよ。

1日に2、3社を回ることもあれば、午前を別のことに使って午後に2件行くこともある。週3日という枠を先に決めて、それを超えないように調整しています。余白を残しておかないと、臨時の対応が入ったときに動かせなくなるからです。

ひとりで見られるのは30社が限界だ、という線もはっきりしています。そこから先は、自分が動くのではなく人を育てる側に回るしかない。10人が5社ずつ担当すれば50社になります。

案件を増やすという話は、どこかで案件を増やさない話に変わります。その手前まで来られるかどうかが、最初の5社にかかっています。