企業から見れば、産業医の費用はコストです

産業医の報酬がどう決まるかを考えるとき、出発点はここになります。企業にとって産業医への支払いは売上を生む投資ではなく、法令を満たすための費用です。だから法令遵守だけを求める案件は、単価が上がりません。産業医の数が増えれば、下がります。

まず全体像を置いておきます。企業の社員として働く専属産業医は全体の5%ほど。特定の企業に属さず産業医だけで生計を立てているプロが1%か2%。残りの大多数は、医療機関に勤めながら嘱託で受けている医師です。

アイジュアイジュ
ということは、大多数はバイトとしての産業医なんですね。
ゆーゆー
そうですね。バイトの産業医です。

この「バイトとして受けている大多数」が、いちばん単価の影響を受けます。

東京の相場は、すでに崩れています

産業医が増えた地域では、訪問回数も訪問時間も削られています。月2回だったものが月1回になり、2時間だったものが1時間になる。同じ企業を担当していても、受け取る額は下がっていきます。

法令で決まっている業務そのものは、そう多くありません。従業員50名以上の企業に義務づけられている衛生委員会への参加、実際に働く場所を回る職場巡視、健診結果の確認。これだけを満たす契約なら、企業側は誰に頼んでも同じだと考えます。同じなら安いほうがいい。相場はそうやって下がります。

仲介に留まると、交渉権がありません

案件を仲介経由で受けている場合、条件は「この案件をこの条件で」という形で提示されます。手数料が引かれた後の金額です。受動的に受けるだけなら、数をこなさない限り売上が積み上がりません。

ゆーゆー
仲介で案件を受けているところに留まる先生は、なかなか厳しいというか、バラ色の世界ではないと思います。
アイジュアイジュ
交渉権がないってことですね。

では数を増やせばいいのかというと、そこにも上限があります。30社40社を自分で担当しようとすると、スケジュール調整と移動だけで時間が埋まります。片道1時間かけて行って、現場での活動が1時間という案件は珍しくありません。往復のほうが長い。

事務作業も乗ります。メールのやりとり、報告書の作成。ここが面倒だと感じるなら、そもそも向いていない仕事です。

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資格を取るコストも、時給に含めて考える

認定産業医の資格に必要なのは50単位、つまり50時間の講習です。1週間の合宿型でまとめて取るか、週末に分けて少しずつ取るか。合宿型の費用は10万円台から30万円ほどで、参加人数の規模によって差が出ます。テストはなく、受講したことが証明できれば取得できます。

アイジュアイジュ
移動の時間も入れると、100時間くらい必要になるわけでしょう。その100時間はいくらよって話になる。
ゆーゆー
フリーランスの先生だと、1週間活動しないコストは大きいですよね。

だから取るなら若いうちがいい、という結論になります。選択肢を増やすための投資として見たとき、機会費用が小さいほど回収しやすいからです。

逆に、バイト感覚で月1回受ける程度に留めるつもりなら、費用を投じて資格を取るところまでやらなくてもいい。ここは正直に線を引いておいたほうが後悔しません。

単価を動かせる場所は、3つあります

構造として下がりやすい仕事だとしても、動かせる余地はあります。

  • 法令遵守の先へ踏み込む。仕組みづくりまで頼まれる契約は、コンサルティングに近い領域に入るので単価の性質が変わります
  • 仲介を経由しない。自分で案件を持ってくると、条件を提示される側から交渉する側に移れます
  • 延長分を必ず請求する。健診結果を100人分その場で確認したいといった依頼が来たとき、今月と来月で1時間ずつ分けましょう、と自分から提案する

3つ目は地味に見えて効きます。延長すれば報酬が発生すると分かっていれば、企業側も枠に収めようとします。突然3時間残らされる、ということが起きなくなる。

従業員50名未満に、まだ空きがあります

産業医との契約義務があるのは従業員50名以上の企業です。それ未満の会社に義務はありません。ただし意識の高い企業なら、顧問弁護士のような形で月々の顧問料をもらい、相談が発生したらその都度対応する、という組み立てができます。

訪問1回いくら、という数え方から離れられるかどうか。ここが、時間の切り売りで終わるかどうかの分かれ目です。産業医の仕事は、臨床に時間を使うか企業を訪問するかの違いだけで、どちらも時給に換算できてしまう。換算できる限り、単価は誰かに決められます。

自分でサービスの形を作ってしまえば、その計算式から外れられます。