認定産業医の、その先にある資格
認定産業医の資格は、50単位の講習を受ければ取れます。テストはありません。受講したことが証明できれば得られる仕組みです。
労働衛生コンサルタントは、そこから先にある国家資格です。試験があり、筆記と口述に分かれています。産業医として活動するために必須ではありません。それでも取りに行く医師がいるのは、企業に対して名乗れるものが変わるからです。
産業医は全国に7万人いると言われます。名義を貸しているだけで実質的な活動がない産業医が長く多かった一方、国は社会保険料の側で対応しきれなくなり、企業側に負担を移し始めています。健康経営という言葉も、ストレスチェックの中小企業への義務化も、その流れの中にあります。名義貸しの産業医はいらない、という方向に進むなら、活動実態を示せるかどうかが問われます。
筆記は、独学でどうにかなる
試験対策として語られることの大半は、実は筆記の話です。そしてここは、市販の教材と過去問で越えられます。医師であれば衛生管理の知識そのものが極端に不足しているわけではないので、法令の体系を頭に入れる作業が中心になります。
問題はそのあとです。
試験官3人に、15分間問われ続ける
口述試験では、大学関係の人と実務家と役所の人が並びます。そこへ15分、質問が飛んできます。
実際の問答はこういう形です。三管理とは何か、と聞かれる。作業環境管理、作業管理、健康管理と答える。この中で一番大事なのはどれか、と続く。作業環境管理です、と答えて、その理由を説明する。上流の工程を解決してしまえば、下流の保護具も健康管理もそもそも要らなくなるからです。
覚える問答は200問ほどになります。しかも答えのない問題が混じっていて、考え方そのものを問われます。まとはずれなことを言うと、試験官には一瞬で伝わります。
ひとりでは、壁打ちができない
この形式が嘱託の産業医にとって厳しいのは、練習相手がいないからです。
専属産業医として企業に属していれば、上司や先輩に問答を聞いてもらえます。大学に籍があれば指導教員に頼めます。ところが嘱託の現場には、産業医が自分ひとりしかいません。自分の答えが的を射ているのかどうかを、確かめる方法がない。
だから3回落ちてようやく試験の形が分かる、ということが起きます。落ちること自体が唯一のフィードバックになってしまう。これは能力の問題ではなく、環境の問題です。
2人から始まって、600人になった
この構造をシステム化したら伸びるだろう、という発想で始まったコミュニティがあります。労働衛生コンサルタントの試験対策を軸にした集まりです。
始まりは10人でした。1年目に7人が落ちて3人になり、そこからまた減って2人になる。その2人で2か月ほど続けていたら、自分も一緒に勉強させてくれという人が集まってきて10人に戻った。翌年は30人、次が50人。そこから600人です。
内訳は産業医が550人ほど、保健師が40人ほど、社労士が30人ほど。医師だけの集まりではありません。
ゆー
アイジュ運営している医師の狙いは、試験の合格者を増やすことそのものではありません。ひとりで見られるのは30社が限界だから、教育に回る。10人が5社ずつ担当すれば50社になる。それが増えていけば日本の労働衛生が良くなる。産業医の質、地域、企業と産業医の関係。この3つを柱に置いていると話しています。
取るかどうかの判断は、目的で決まる
資格そのものが案件を運んでくるわけではありません。案件をこなすだけの産業医と、企業から選ばれる産業医の違いは何か、という問いへの答えは、企業に価値を届けようというマインドセットでした。いるだけの人は問題を解決できません。メンタルの相談ひとつ取っても、見通しを立てて示さないと担当者が困ります。
それでも取りに行く理由があるとすれば、この2つです。
- 嘱託でひとり働き続けると能力が偏るので、体系立てて学び直す機会になる
- 活動実態が問われる方向に制度が動くとき、示せるものがひとつ増える
逆に、月1回の訪問をバイトとして続けるつもりなら、ここまでの時間を投じる必要はありません。認定産業医で足ります。
どこまで産業医に時間を使うかを先に決める。順番はそちらです。